sanzo20043212008-02-09

 ありがとう!辻三蔵の「ウィークエンダー
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金曜日午前11時、牧場に帰るコイウタを見送りに奥平厩舎に行った。ダイワメジャーが旅立ったときには日刊紙の写真撮影もあったが、見送りに来ていた記者は私だけ。奥平師も月曜日に予定していた調教師会が金曜日に延期されたこともあり、不在だった。
 午前11時20分、馬運車が到着すると、コイウタは素直に乗り込んだ。小柳さん(調教助手)が水曜日の坂路で「元気が良すぎて持って行かれた」ヤンチャな仕草はない。穏和な表情を浮かべて、大人しく立っている。もう、母親への準備を始めているように感じた。 
 普段の調教をつけていた小柳さんは「見に行くと、泣けちゃうよ」と言って馬運車に近寄らないし、厩務員の竹俣さんは感極まった表情を見せている。寿さん(鈴木調教助手)の「いい仔を産めよ」と言う声が空に響くと共に、馬運車は牧場へと出発した。
 竹俣さんは「大した馬だよ。G1勝ちから海外遠征、授賞式と初めての体験を全てさせてもらった。これから調子が上がってくるだけに残念な気持ちもあるが、オークス競走中止)のこともあるし、無事に帰せて良かったよ。まだまだ元気一杯だし、いい仔を産んでくれると思うよ」と晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
 午後12時半、昼休みに入った奥平師から電話がかかってきた。「コイ、どうだった」と聞く師に、私は「綺麗でしたよ」と答えた。あんなにヤンチャでお転婆だったコイちゃんが今日は嫁入り前の花嫁のように、美しかった。
 「辻ちゃんはコイと一緒にウチに来たからね」と奥平師は懐かしそうに言った。調教班に所属している私が厩舎に行くようになったのもコイウタがきっかけだった。現場にいるトラックマンとして、自分の目で見て、聞いて、感じたことを伝えていきたい。その集大成がコイウタが勝ったヴィクトリアマイルだった。
 オークスでの悲劇、ヴィクトリアマイル歓喜、怒りのアメリカ、笑顔の授賞式。そして引退。共に喜び、共に泣き、共に笑う。一頭の競走馬と共に、人生を歩くことの素晴らしさを知った。「ありがとう。コイちゃん」そう言って、私は彼女を見送った。
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