至極の返し馬

皐月賞当日。
 中山競馬場ベンジャミンプラザで行われたオープン型レーシングセミナーの後に、午後2時半からREXS(レーシングエキスパートセミナー)3回目の講義へ。今回は皐月賞を競馬場で見られる貴重な機会なので「返し馬の見方」をテーマに話した。馬場入場後の返し馬は騎手にとって、レースに向けての最終確認。初めて騎乗する馬に関しては乗り味や癖を掴むために、短い時間でコミュニケーションを取る。馬の状態に合わせて、興奮している馬は落ち着かせるために歩く時間を長く取り、気合の足りない馬には速めのキャンターで走る気を促すこともある。
中山12R春興Sでは芝1600mのスタート地点は1コーナー奥のポケット地点にあるにも関わらず、ロイヤルクレスト(4番人気2着)に騎乗した横山典弘騎手は4コーナー奥の待避所まで長めのキャンターを行った。プラス16キロと余裕残しの体付きを考慮して、返し馬を入念に行っていたのが印象的だった。
 皐月賞の返し馬では馬場のいい外目を走らせる馬が多い中、ゴールドシップ(4番人気1着)に騎乗した内田博幸騎手は馬場の真ん中周辺を走らせた。荒れた馬場に滑るところもなく、シッカリとした脚取りで駆け抜けた。一方、ワールドエース(2番人気2着)に騎乗した福永祐一騎手は1頭大きく離れて外ラチ沿いを走らせていた。
 道中はワールドエースと並んで最後方を追走していたゴールドシップが3コーナーから馬場の悪い内側を通って、先行集団に取り付いた。一方、ワールドエースは馬群に包まれるのを嫌って、直線では大外に出した。3コーナーでの通過順位で同じ17番手にいた両馬は4コーナーではゴールドシップが6番手に一気に押し上げて、ワールドエースは後方(15番手)のままだ。しかも内を突いたゴールドシップと大外を回ったワールドエースでは通った距離がまるで違う。同じ上がり3F34秒台の末脚を使っても、コース取りの差が両者の明暗を分けた。
 最善の準備が最高の結果を導き出す。もしかしたら、返し馬の時点で勝負は決まっていたのかもしれない。