初級必打

 好球必打という言葉がある。
 松井秀喜の言葉を借りれば、「想定の範囲内のボールが来たら、必ず打ち返す。そのために努力して準備しています」(著書『不動心』より引用)という意味になる。
 相手投手の配球からジャストミートできる球種、コースを選択して、狙い球を決める。そして打席に立ったときには覚悟を決めて確実に打ち返すことを心がける。
 巨人対ヤクルト18回戦。1回表巨人の攻撃。1番長野は2ボール2ストライクから5球目のシンカーをライトに2塁打、2番藤村は2ボール2ストライクから5球目のシンカーをレフトに流し打ちタイムリー、3番坂本は2ボール2ストライクからシンカーをレフト前ヒット。そして4番阿部はストレート(ボール)を見逃した後、2球目のシンカーを捕えてライト前にタイムリーヒットを打った。
 1番長野から4番阿部までの4連打は赤川のストレートを捨てて、変化球一本に的を絞っていた。さすがに5番村田にはストレート中心の配球(三振)だったが、赤川(22歳)、中村(22歳)の高卒4年目バッテリーを揺さぶるには十分な先制攻撃だった。
 一方、野村謙二郎が持つ「野球の教科書」には「初級必打」という言葉があるようだ。
 8回裏1対0で横浜が1点リード。横浜先発国吉は初完封初完投がかかるマウンドだ。しかし、カープのピンチヒッター安部は初球、外角高めのストレートに止めたバットが当たり、サードゴロ。9番迎は初球、抜けた変化球を打ち上げてファーストフライ。1番天谷も初球のフォークをサード方面に打ち返したが、ファール。結局、4球目のストレートを打ち上げてレフトフライに終わった。
 外角高めのストレート、真ん中のフォークボール、外角低めのフォークボールを全て初球打ち。球種も絞らず、コースもバラバラ。
 一番苦しいはずの8回裏はたった6球で終わった。
 今井、今村の力投で横浜打線を1点で抑えて、迎えた9回裏。2番東出からの好打順だ。先発国吉にとって、粘り強い東出は嫌なはずだが…、初級、外角低めのフォークボールをファール。2球目の真ん中ストレートを打ち上げてレフトフライ。3番梵は初球真ん中ストレートを打ち上げてライトフライ。4番エルドレッドは初球、外角低めのスライダーを引っかけてファーストゴロ。
 一番苦しいはずの9回裏がわずか4球で終わった。
 球種もコースも絞らず、ただ初球を打っているだけ。強打の巨人打線が狙い球を絞って相手投手を攻略しているのに、貧打のカープ打線が漫然と初球を打っているだけでは勝てるわけがない。スコアブックを見たときに、ベンチの無為無策に愕然とした。
 国吉の92球。先週の阪神戦、今井が134球、気迫の投球で掴み取った初完封劇と比べて、なんとも味気ない国吉のプロ初完投初完封。今のカープ打線を無失点に抑えても価値はあるまい。情けなくて、国吉にも申し訳ない気がした。
 不幸中の幸いは4位ヤクルトが巨人に負けていることだ。こんなにカープが弱くてもヤクルトが付き合ってくれる。連敗しても3位なのだから俺たちはまだやれると、胸を張った方がいい。そのかわり、今日の敗戦を反省して明日の試合で生かして欲しい。明日こそは「好球必打」の野球が見たいものだ。