一折の鯉にも五分の魂

 巨人との最後の3連戦。辛酸を舐め尽したカープが2勝1敗で巨人に勝ち越した。
 巨人1点リードで迎えた9回裏。巨人のストッパー西村健太郎がマウンドに立つ。昨日まで球団新記録の28試合連続無失点記録を継続中。防御率1.03、現在セリーグトップの32セーブを挙げている絶対的守護神だ。
 今年、完封負けを20度食らっているカープにとって、零敗は既定路線。ましてや、巨人との対戦成績は7勝15敗(1分)。昨日まで10連敗を喫していたように、圧倒的な実力差を見せ付けられていた。
 9回裏はクリーンアップからの攻撃。
 3番梵が2球目に内角高めのストレートを簡単に打ち上げてライトフライ。
 ワンアウトランナーなし。4番エルドレッドも3球で2ストライクに追い込まれた。低めのフォークボールに空振り、内角高めのストレートが詰まってポップフライ…。いつもの展開と思いきや、エルドレッドがファールで粘り、低めのフォークボールに手を出さず、フルカウントまで持ち込んだ。粘りに粘った11球目をライト前ヒット。来年の契約が囁かれ始めた巨人3連戦でホームラン2本を含む12打数5安打3打点と4番の仕事を務めた。
 ワンアウト1塁。5番丸も3球で2ストライクに追い込まれたが、際どいコースはファウルで逃げて、ボールゾーンをシッカリ見極めてフルカウント。粘りに粘った8球目にフォアボールを選んだ。丸は打率.232ながら、出塁率は.346と阪神鳥谷並みの高い出塁率を誇る。丸の特性を生かすためにも来年は上位打線に組み込む手はあるはずだ。
 ワンアウト1、2塁、代打前田。西村がカウントを取りに来た初球をライト前ヒット。8月7日から14試合ヒットがなかった前田(3四球含む)も来期の契約がかかった巨人3連戦から3試合連続ヒット、2打点。選手生命の土壇場で勝負強さを発揮した。
 ワンアウト満塁、7番天谷。初級見逃し、2球目低めのクソボールをハーフスイング。あっという間に2ストライクに追い込まれたが、際どいコースを2球見逃して、ファウルで粘った7球目、ライト前にサヨナラ2点タイムリーヒットを放った。
 6月に打率.373、7月も.291と好調を誇った打撃も夏場に入り、8月.213、9月.235と急激に失速。打率3割(.306)を超す1番から7番に定着したが、7番の打順別成績(先発時)は打率.255、打点5(昨日まで)。昨日までの得点圏打率が.171の天谷をなぜ7番に置くのか。今日の粘りを生かせるのは1番しかないだろう。天谷以上に切り込み隊長が似合う男はいない。
 ヒーローインタビューに呼ばれた天谷は最後に「若いピッチャーが頑張っているので、その期待に応えられるように打撃陣も頑張っていきたい」と悔し涙を堪えながら締め括った。
 泣くな、天谷。残り7試合、ルーキー野村祐輔の10勝、エース前田健太最多勝、2年目中崎翔太のプロ初勝利と借りを返すチャンスは残されている。
 「泥臭いチームを作れ。ずるい野球をやれ」カープの黄金時代を築いた古葉竹識元監督の信条だ(著書『耐えて勝つ』より)。粘り強く、相手が嫌がる野球で泥臭く勝つ。今日の粘りが明日の勝利、そして来年の優勝に繋がるはずだ。