おめでとう!コイウタ辻三蔵の「ウィークエンダー
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 ヴィクトリアマイル奥平雅士厩舎のコイウタがG1を勝った。トラックマンになってから10年経つが、こんなに嬉しい勝利はない。いや、15歳で競馬を始めて以来、一番、感動したレースだった。レースが終わった後、ガッツポーズが出るほど、喜んだことはなかった。
 普通ならコイウタが抜け出した瞬間、2着馬に目をやるものだ。しかし、2着に何が入ったのかわからなかった。直線はコイウタしか見ていなかった。それほど、興奮していた。レース後、鞍上の松岡騎手と見習の頃から懇意にしている『日刊競馬』の久保木正則TM、松岡騎手を縁の下で支えている『ダービーニュース』の森山大地TMとガッチリ握手。皆、顔が紅潮している。久保木さんは「マツはスゲエ」と興奮した口調で語り、森山は「ホントに勝っちゃったよ」と大きな目を更に大きくしていた。
 日曜日は南馬場調教コースの調教当番だった。午前2時に自宅を出て、美浦トレセンへ。午前4時から10時まで調教を見て、昼過ぎに国分寺に帰ってきた。仕事は終わっているので午後は半休だったが、「コイウタが勝つかもしれない」と思い、東京競馬場に向かった。
 競馬場で仕事をしていれば、レースが終わった後はレースリプレイを見てから、最終レースのパドックに行く。『競馬ブック』や『競馬エイト』(ギャロップ)、日刊紙のようにインタビューを載せる仕事はないので、G1が終わった後の検量室に降りることはない。ただ、今回は仕事ではない。興奮そのままに森山TMと共に検量室まで降りた。
 検量室まで降りると、既にコイウタは帰ってきており、陣営は歓喜に包まれている。奥平雅士調教師は義父の奥平真治元調教師、奥平師の仲人である尾形充弘調教師と歓喜を分かち合っていた。その後、目黒貴子さんがインタビュアーを務めた奥平師の共同インタビューが始まった。インタビューが終わった後、奥平師のところに駆け寄ると、感激のあまり、思わず抱き合ってしまった。
 奥平雅士調教師は開業3年目でのG1初制覇。グレード制導入後、34歳10ヶ月21日でのG1制覇は森調教師(93年ジャパンカップ1着レガシーワールド、34歳8カ月16日)に次ぐ、2番目に速い。現役最年少調教師として31歳で開業。義父は奥平真治調教師、祖母はメジロ牧場の故北野ミヤさんの実妹になる。開業初年度に交流G3クラスターC(1着エンゲルグレーセ)で重賞初制覇。2年目にクイーンC(1着コイウタ)でJRA重賞を制した。順風満帆にも思える調教師人生だが、昨年の今頃はドン底だった。オークスコイウタ)での競走中止後、2ヶ月、3ヶ月と勝てない時期が続いた。その間に、2歳馬が15頭デビューしたが、初勝利は11月(ニードルポイント)と苦しみ抜いた。
 希望が見えたのは文字通り、タケデンノキボーが500万条件(10月22日東京12R芝1400m、11番人気)で2着したときからだ。前走の瓢湖特別(新潟芝2000m)ではあのローエングリンゴーステディが競り合った秋の天皇賞と同じ5F56秒9の超ハイペースで大逃げした癖馬。それでも気性を考えて、調整方法を試行錯誤して、短距離戦に大胆に路線変更した。馬の性格を見極めながら調教方法を工夫し、適性のあるレースを選ぶ。ハナ差負けたが、翌週、奥平師の顔には充実感が溢れていた。この後、奥平厩舎に転厩後、[0、3、4、1]と勝ち切れなかったスウィートネスを未勝利戦最後の福島開催(10月28日)で勝った。11月12日のオーロカップ(東京芝1400m2着)では秋華賞ブービー負けしたコイウタを見事に立て直した。タケデンノキボー希望の轍だった。
 今年、18勝を挙げて、全国リーディングトレーナー2位につけているが、奥平師に慢心は一切ない。苦い経験があるからこそ、その失敗を繰り返さないように、決して奢らず、地に足がついた状態で日々を送っている。
 G1を勝つチャンスは一生に一度しかない。その一度はいつ訪れるかわからない。だから、目標のレースに向けて全力で仕上げるしかない。カワカミプリンセススイープトウショウが強いのはわかっている。しかし、自分にできることはコイウタをピークの状態でヴィクトリアマイルに出走させること。コイウタ秋華賞後、すぐさま、ヴィクトリアマイルに目を向けた。オーロカップでマイル適性を再認識し、次走(クイーン賞13着)はダートに挑戦した。ダートを試したのはヴィクトリアマイルまで時間があったからだ。続く京都牝馬S(9着)では短期放牧を挟むよりも使い込んだ方が良くなると再認識した。だから、ヴィクトリアマイルを逆算して、東風S→ダービー卿CTのローテーションを組んだ。短期放牧に出さずに自厩舎で調整した。東風Sで課題を見つけると、ダービー卿CTですぐに修正した。ダービー卿CTで手応えを掴むと、ヴィクトリアマイルに向けて万全に仕上げた。
 勝ってみれば、順当な結果のように見えるが、その過程は試行錯誤の繰り返しだった。コイウタの状態がいいのは日刊紙でも載っていた。ただ、その話が信じられるかどうかが、問題だ。毎日、坂路でコイウタの姿を見て、毎週、師の話を聞く。日々の積み重ねがあったからこそ、自信を持ってコイウタを推奨できた。
 カワカミプリンセススイープトウショウは強い。しかし、二強の調整過程に疑問を感じた。今のデキならチャンスはある。奥平師も松岡騎手も自信を持っていた。松岡騎手は最高の騎乗を見せたが、彼はダービー卿CTを勝った時点で頭の中で何百回もシミュレーションをしていたはずだ。そのことは久保木さんと森山に自信がある発言をしていたことでわかった。当日の松岡騎手は芝の状態を確かめながら乗っていた。パドックでは奥平師と松岡騎手が真剣な顔で話していた。このときに腹を決まっていたと思う。そして、ヴィクトリアマイルの返し馬では最内沿いを通った。念入りな準備が勝利に繋がった。
 おめでとう!コイウタ。そして、ありがとう!コイウタ奥平雅士調教師、師を支える奥平厩舎スタッフのみなさん、松岡正海騎手、おめでとうございます。昨日はコイウタのおかげで妻と美味しいシャンパンが飲めました。今度は美浦での祝勝会で祝杯を上げましょう。   
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