夢の続き!辻三蔵の「ウィークエンダーキャッシュコールマイル遠征記」最終話!
人気ブログランキングにお願いします。ありがとうございます。
 スタートで一完歩遅れたコイウタだが、内田博騎手が気合をつけて先行する。前に行くのは作戦通りだ。渡米前、奥平師は内田博騎手にクイーンCとヴィクトリアマイルの2レースが入ったDVDを渡した。内田博騎手がコイウタに騎乗したオーロカップ(2着)は後方から差す形だった。奥平師は小回りコースを意識して先行する競馬をイメージして欲しかった。
 行き脚がついたコイウタだが、内に切れ込んできたダンシングエディに再三、ぶつけられる。ムキになったコイウタは口を割りながら掛かり気味に先行する。それでも2コーナーで折り合いがつくと、向正面では「手前を替えていたし、息が入っていた」(奥平師)ように持ち直したように見えた。しかし、4コーナー手前で急激に手応えがなくなり、ズルズル後退。米国馬に弾き飛ばされる不利もあり、直線では最後方まで下がった。
 故障が心配だったが、内田博騎手は最後は見せムチだけで無理はしていなかった。無事に走り終えたコイウタを見た竹俣さん(厩務員)はほっとした表情を浮かべていた。奥平師は「ペースが速かったな」と言うと、コイウタの元へ向かった。
 ハリウッドパークのレース映像にはラップ表示がない。レースは馬群が一団になって進み、逃げたプレシャスキティンが2着に粘った。そのため、ペースは遅いように見えたが、前半5Fは57秒6(推定)のハイペース。上がり3Fは36秒0(推定)もかかった*1。勝ち時計は1分33秒56。昨年のダンスインザムード(1分33秒33)より0秒2遅かったが、今年のハリウッドパークが内側の芝が荒れていて、馬場が緩い。昨年以上にタフなレースになった。コイウタヴィクトリアマイルを1分32秒5で勝っているが、そのときの前半5Fは58秒2。「調子自体は良かったと思うが、アメリカ特有の、小回りのスピード競馬に対応できなかった」と奥平師は敗因を語った。
 しかし、今回はレース内容以前の問題だ。レース当日のスクラッチ騒動*2の影響で、コイウタの精神状態が平常心ではなかった。負け方を見ると、4走前の東風S(13着)と酷似している。東風Sではパドックからイレ込みがキツく、返し馬でも持って行かれた。レースでも掛かり気味に先行して、直線でなし崩しに末を失った。コイウタは相手よりも自分との戦いだ。レース当日、気性が落ち着いていれば、力を発揮できる。前日までは「レース当日、芝コースでスクーリングできる」ほど、順調に調整できていた。それだけに「スクラッチ騒動」でリズムを崩したのが本当に残念だ。
 「いろいろとあったけど、これが遠征競馬の厳しさだ。日本で常識なことがアメリカで常識とは限らない。有事が起きる前に、対処できるよう、あらゆる準備をしておかなければいけない。今回はコイウタをレースに出走させることができた。もし、主催者側のスクラッチを受け入れていたら、モヤモヤが残った気分で帰国したことになる。レースを体験したからこそ、わかることがあるし、今後に繋がる。初めての海外競馬で悔しい結果になったが、また、アメリカに遠征したい」と奥平師は新たな決意を燃やしていた。
後日、キャッシュコールマイルを優勝したレディオブヴェニスから禁止薬物の陽性反応が出たという報道があった*3。管理するパトリック=ビアンコーヌ調教師(フランス出身)はアメリカに移籍する前にも、香港で禁止薬物が出て、10カ月間、調教師免許停止となったことがある。「常習犯」なのは間違いない。
 昨年の凱旋門賞ではディープインパクトが欧州で禁止されている薬物イプラトロピウムが検出されたため、失格になった*4。フランスギャロから池江泰郎調教師に対して、15,000ユーロ(約225万円)の制裁金が科せられた。 そのため、今回のアメリカ遠征では日本馬に対するチェックが厳しくなった。しかし、自国の馬には何と甘いことか。しかも、レディオブヴェニスは失格することもなく、調教師に罰金1,500ドル(約18万円)が科せられただけだ。身内贔屓にも程がある。
 「木曜日にJRA国際部から重量変更の事情を聞かれた*5。国際部はカリフォルニア州競馬委員会に正式に抗議すると言っていた。今回、経験したことは全て話したし、今後の日本馬の遠征に役立てて欲しい」と奥平師は話していた。
 帰国後、コイウタのスクラッチ騒動に関して、ほとんどの人が知らないことに驚いた。私が見る限り、7月16日(月)時点でメディアでこのことを書いたのはサンスポの高尾幸司記者だけだ*6。だからこそ、みなさんに知ってほしかった。コイウタが力負けしたなら仕方がないが、その実力を発揮できる状況ではなかった。現地にいた人間は悔しい思いを抱えて、日本に帰国した。ディープインパクトが受けた屈辱、コイウタの悲運を決して忘れてはいけない。
奥平師は今日、マーキュリーC(交流G3、盛岡10R)でシャーベットトーンを出走させる。「コイウタには繁殖という大切な仕事がある。コイウタが果たせなかった夢はシャーベットトーンに託すよ。今度はこの馬でアメリカに遠征したいね」と新たな夢を抱いていた。「8分の仕上がりだけど、このメンバーならキッチリ決めてくるよ」と奥平師は笑顔で盛岡に向かった。
●お読みになった方は→人気ブログランキングへお願いします。ありがとうございました。

*1:ちなみにアメリカンオークスの前半5Fは61秒5(推定)。上がり3Fは33秒8(推定)とスローペースの瞬発力勝負だった

*2:http://d.hatena.ne.jp/sanzo2004321/20070710

*3:http://www.sanspo.com/keiba/top/ke200707/ke2007071310.html

*4:http://www.jra.go.jp/news/200611/111610.html

*5:http://d.hatena.ne.jp/sanzo2004321/20070711

*6:ギャロップ7月9日号、サンスポ7月11日紙面上に掲載