叶わぬコイ

 今日、スカパー!プロ野球チャンネルを解約した。
 10月からは「スカパー!基本パック」に加入して、『おとり捜査官・北見志穂』や『新・京都迷宮案内』を見る小木茂光さん(KEIBAコンシェルジュ支配人)中心の生活になるだろう。
 9月30日、マツダスタジアムでは石井琢朗引退試合が行われた。2005年野村謙二郎、2006年浅井樹、2007年佐々岡真司、2009年緒方孝市、2010年高橋健。昨年引退した豊田清は固辞したが、Bクラスに決まった後に行われる恒例の引退興行だ。
 石井琢朗が引退を発表したのが8月27日。4位ヤクルトとの神宮3連戦を前に、チームを鼓舞する発奮材料にしたかったのだろう。翌28日には3連敗中だった前田健太が7回3失点、打撃陣も10得点を奪い、快勝した。ヒーローインタビューで前田健太が「琢朗さんのために、絶対クライマックスシリーズに行きましょう!」と叫ぶと、神宮球場はこの日一番の大歓声に包まれた。
 あれから1カ月後、カープは今シーズン最多の借金13を背負い、15年連続Bクラスが確定した。
 9月に入り、カープは6勝17敗(1分)と大失速した。昨年も7月(貯金2)、8月(貯金3)を勝ち越し、借金1でAクラス争いに食い込んだが、9月に6勝16敗(1分)と後退している。2年連続、9月に借金10以上の負け越しを食らうのは野村謙二郎の無能を証明している。小川淳司率いるヤクルトは正念場の9月で16勝8敗(1分)と大きく勝ち越している。昨年9月も17勝7敗(1分)と貯金10を稼いでいるのだから、指揮官の技量の差が成績に反映されているのは明らかだ。
 それにしても空しい引退試合だった。9回裏2対1で阪神1点リード。カープはワンアウト1、2塁から9番東出がバントで送り、ツーアウト2、3塁で1番石井琢朗に回した。引退する石井琢朗に勝敗の帰趨を押し付ける無責任さ。馬鹿の一つ覚えのようにファーストストライクを打って凡打を繰り返し、チャンスでは注文通り、併殺打を打つ。打撃陣に石井琢朗に勝たせたい、野村祐輔の負けを消したい気持ちなんて全くないのだろう。「チャンスであと一本が出ない。歯がゆいね」と他人事のように呟く野村謙二郎では来年も同じことの繰り返しだ。
 カープファンは15年間も屈辱の日々を送っている。広島の主催試合の観客動員数は4年連続150万人を突破した。人口118万人の広島市を本拠地とするマツダスタジアムが首都圏に球団を持つ東京ヤクルト横浜ベイスターズより観客動員数を上回っている。神宮球場横浜スタジアムではビジターゲームにも関わらず、カープファンがレフトスタンド、3塁側内野スタンドを真っ赤に染めている。ファンの応援を重圧に感じるようではプロ野球選手とは言えまい。
 1975年10月、広島カープが初優勝したときに三本柱の一角として活躍した佐伯和司投手の言葉を引用したい。「野球はやっぱり強くならんとダメですね。去年までは、もうこの時期は消化ゲーム。スタンドにカンコ鳥が泣いて、わずかのファンの罵声の中でみじめな思いをしましたから」(古葉竹識著『耐えて勝つ』より)。
 今のカープナインは幸せだ。どんなに負けてもたくさんのカープファンが応援してくれる。しかし、カープファンの忍耐と我慢はもう限界だ。カープファンが馬鹿にされる不様な戦いをしていけない。必死に応援しているファンに失礼だ。
 競馬の話になるが、10月6日から8日まで東京競馬場では3日間開催が行われる。競馬を生業としているフリーのレーシングライターとしては稼ぎどころだが、断腸の思いで、東京競馬場のイベント、グリーンチャンネル『KEIBAコンシェルジュ』の出演を外して貰った。もし、クライマックスシリーズ争いをしていれば、6日、7日のヤクルトとの神宮球場2連戦、8日の横浜スタジアムでのベイスターズとの最終戦が順位を決める大事な3連戦になるはずだった。15年ぶりのAクラス入りのために、一人のカープファンとして球場で声援を送りたかった。カープナインを勇気づけたかった。
 昨日、買って置いたチケットを破り捨てた。仕事を犠牲にしてまでカープに賭けた思いは全て無駄になった。叶わぬコイほど空しいことはない。